「あ、・・・あのっ、ささくん!」





彼は緩やかに振り向いて、不思議そうな顔をする。






「ありがとう・・・!」








「・・俺、お礼言われるよーなことしたっけ~?」


おどけるように笑う。
けれど私の目が真剣なことに気付いたのか、彼はすっと笑みを消す。

「今日も、だけど・・・事故にあってから、今まで、色々面倒みてくれて、ありがとうっ」
「あ、いや・・・それは、さ」




うん、わかる。
私が可哀想だったからだ。
事故にあって、何も覚えてなくて、ただつらくてつらくて──……。


だから私を助けただけだ。
困ってる人を見過ごせなかった、だけ。









「私、ささくんが好きですっ、大好き、です・・・」









ギャンブルとか女の人に弱いささくんも、
子供や人に優しいささくんも、
つまんない冗談ですべっちゃうささくんも。



全部、好き───。







「・・・・、ごめん・・」
「・・・!」


ささくんが、ひどく悲しそうな顔をした。


「考えさせてもらっても、いーかな」
「え、・・・あ・・・・・う、うんっ!!」



断られると思った。
ばっさりと切り捨てられるかと・・・



「・・・全然、大丈夫っ・・!ていうか、気にしなくて平気だから!」
「・・・なら何で泣いてんの」

困ったように笑うささくん。



「え、泣いて・・・?」


私が自分の涙を確認するより早く、彼のごつごつした指が、無造作に私の涙を拭う。



「泣かないで。いっちゃんに泣かれると、困るんだ」
「あ・・・う、ん・・ごめんね」

にこ、とささくんは笑ってから、もう一度私に背を向けて帰っていく。
その背中は広く大きくて、すこし悲しそうだった。







その後姿を見届けてから、私は全身の力が抜けて、ふにゃりと座り込んでしまった。









「・・・・告白、しちゃった」





そして震える手で携帯電話を取り出し、陽子に電話を掛ける。
彼女の驚いた声を聞くまで、私はその場にしゃがみこんだままだった。