手を伸ばせば、届く距離まで。




ボーッとしてながめていたため、人影に気がつかなかった。


「おい」


どす低い声をかけられ、ビクッとしてそちらに目を向けた。


久野…何とか。なんだったかな。


「彼氏なら、もう分かってるだろ。華織ちゃんの好きな奴」


「やめろ」


あっ…何か、今…


「溺れたら、逃げ道が狭まる。真樹とか言ったな。お前は負けだよ」


―――どす黒い、何かが。