けど
口論はその点に触れぬまま進んでゆく。



ギャラリーにはちらほら気づいた奴もいた。



でも
私たちは口をはさむことはできない。



ただの
見物人であって
ごたごたの関係者ではないから。



「俺は何も……」



「俺の女に何した」


斉藤君の弁論はさえぎられる。



あっけなく。



すでにペースとギャラリーの気持ちは
矢崎に味方していた。



「彼女とられてかわいそう」
そんな同情の声が
どこからともなく聞こえてくる。



「おい!」



感極まって矢崎が
斉藤君の制服の胸ぐらを掴んだ。



もう
斉藤君は反論しない。



そう思った。



彼の口から無情に漏れたのは
「ごめん」という
七夏と「手を繋いで歩いていた」
とういことを認める
謝罪の言葉だった。



斉藤くんは変だ。