教室内をのぞいてみると
中心に斉藤君と矢崎がいた。




対峙する二人。



矢崎のほうは怒りを露わにして
斉藤君をにらんでいる。



一方の斉藤君は
妙にすまなさそうな顔をしていた。



一体何があったのだろうか。



そう思っていた矢先。



矢崎が吠えた。



「アサギ！てめぇ、俺の女にてぇ出しただろ！」



何！


本当！？



ギャラリーがどよめく。



「マジか」
「あの浅葱くんが？」
「女と関わりなさそうなのに」
「意外だな」



口々につぶやく。



へぇ。



そうなんだ。



「意外だなぁ」



私もその呟きに混じった。



本当にそう思ったからだ。



「別に、俺は何もしてない」


頑なに斉藤君は否定する。



激情などしない。



あくまで冷静だ。



「けど、三ヶ尻が七夏（ナナカ）とお前が
　手ぇ繋いでるの見たって」



そういうなり、
矢崎は後ろを振り向いた。



すると、
一人のポニーテール少女が前へと歩み出た。



三ヶ尻未香子（ミカジリ　ミカコ）だ。



「私、見ちゃったの。
　アサギと七夏が一緒に歩いてるの」



ここで
すでに矢崎の意見と食い違う点が発生した。



矢崎は「手を繋いでいた」。



しかし
三ヶ尻は「一緒に歩いていた」。



人の誤解は怖い。