…あたしの彼は、今、巷(ちまた)で話題の草食系男子ってやつだ。
手を繋いだこともなければ、もちろんキスもない。
手くらい繋ぎたいじゃん。触れてほしいとか思うのに…!
「…だー、もう!」
「っへ、どうしたの?」
どうしたのじゃないやい。原因は君だよ。なんだよもう、かっこいいな。
暗くなりつつある、午後6時過ぎ。となりを歩く彼は、不思議そうに首をかしげた
ふわりと、夏の風があたしの長い髪を揺らす。
―この際、思いきって聞いてみようか。
「ねー」
「ん?」
「なんで、手繋いだりしないの?」
ドサっと彼は持っているスクバを地面に落とした。…そして立ち止まった。
「や、やっぱりなにもないです。すいません。」
困った顔をしている彼。
スクバを落とすほど手を繋ぐのが嫌なのかと、マイナスの方向へ向かっていく思考。
そう考え出したらすこしずつ、視界は歪んだ。
それをごまかすかのように彼に鞄を差し出す。
「…帰ろ! はい、鞄」
「…ちがうっ…」
「…へ、かばん?」
「俺だって、手繋いだり、ぎゅってしたり、キスしたり、頭なでたりしたい…」
「…っ」
向きあい、真っ直ぐあたしをみる彼は真剣で。冗談なんていえる雰囲気じゃない。
そのブラウンの瞳にいつも吸い込まれそうになるんだ
「……だって、触れたら壊れちゃいそうで……」
視線をすこしずらして呟くきみの頬は真っ赤で。
心臓がぎゅうっと鷲掴みされた感覚におちいった。

