「ちーびー、帰ろー」
「ん、待ってっ」
「早くしろちび」
「ちびじゃないやい」

二年近くはいてる上履きを下駄箱に突っ込む。
急ぎすぎて、つまずいたあたしを彼が支えてくれた。ふわりと香る、彼の匂いに体温はあがった。

「ばーかっ」
「す、すいません…!あ!もう暗くなってきてる」
「まじ」

部活がおわった6時30分。オレンジ色の陽は地平線に吸い込まれつつある。
オレンジ色の空と藍色の空のグラデーションがきれいだ。

「あっつ…」
ワイシャツの襟をパタパタと仰ぎながら呟いた。サッカー部の君からは、少し汗の匂いがした。汗と優しい匂い。

「まさきー、手っ」
「ん」

車通りが少なく、街灯も少ないこの道を手を繋いで歩くのは何回目になるだろう。
大きなゴツゴツした手で、あたしの小さな手をぎゅっときつく握った。
(男の子だなあ)

お腹がすいたとか、今日の部活で先生がどうだったとか、他愛もないこの時間がたまらなく好きなんだ。君といる時間がたまらなく好きなんだ。

そんなことを考えていたら、彼がふわりと笑った

「どうしたのだよ」
「星が見えるのだよ」
「あ!ほんとだっ」