完璧な男と完璧とは言えない女がいた。
 完璧とは言えない女は完璧な男を愛し、彼もまた完璧とは言えない彼女を愛していた、と言って良い。
 彼女が彼を呼べば、彼はいつだって駆け付けた。彼は彼女の願いをなんだって叶えた。

「5分よ」と彼女は言った。

「私が耐えられるのは5分まで。5分たったら寂しくて死んじゃうから。ねえ、ほんとよ。でも嫌な顔しないでね。だって私は貴方の為なら5分も耐えられるんですもの」

 彼はどこにいても彼女が呼べば5分で傍に駆け付けた。
 彼女はそれに満足し、だけど完璧には満足していなかった。
 彼女は言った。

「ねえ、あなた、北極に行ってきて。そして私が寂しいって言ったら、5分でとんできて」

 完璧な男は頷くとすぐに北極に行き、完璧とは言えない女が「寂しい」と呟くのを聞くと5分で彼女の元に帰ってきた。
 しかし完璧とは言えない女は既に違う男と婚約しており、その男はアル中で夜になると暴力を振るい、おまけに無職でたちの悪いニンフォマニアだった。
 完璧とは言えない女は泣きながら言った。

「どうしてあの時北極に行ったの?どうして私を一人ぼっちにしたの?私は寂しくて、ずっと寂しくて、今も寂しくて、だけど結局死ねなかったのよ」

 完璧な男は頷くと、完璧とは言えない女の願いを全て叶えた。
 それ故に完璧な男は最後まで愛を失い続けた。