――だけど。

 僕は思う。

 彼女は、どうだろう?

 彼女は、進みたかったのではないか?
 彼女は、本当にこんな不自然な空間に捕われていたいのか?
 何かを犠牲にしてでも前に――自分が信じた方向に、進みたかったのではないか?

 わからない。
 それを知るには僕と彼女は余りにも多くを語り過ぎた。だけど同時に僕と彼女は何一つ語り合っていないのだ。
 お互いの好きな食べ物を知りはしても、好きな理由までは知らない。

 ぞっとした。

 僕は一ヶ月もの間、他人を匿ってきたのだ。
 
「ねぇ?聞かないの?」 
 彼女は今度はよりハッキリと、言った。
 聞け、と。

 僕は少しだけ痛む心臓を意識しながら、彼女に尋ねることにする。