…だけど。
あの瞳はもう、私には向けてくれない。
あの手はもう、私の手をとってくれない。
…全部、全部あの子のものなんだから。
それを今まで、さも自分のもののようにしてきた。
あの子がどうして私にあんな視線を向けたのかも、今ならよくわかる。
「…杏?」
気づいたら、私の瞳からは一粒の涙がこぼれ落ちていた。
…ねぇ、美保。
私、気づいちゃったよ。
気づきたくもなかった、この気持ち。
「…美保…私…」
こうして宇野くんのことを考えると、言葉で表わせない気持ちになる。
温かくなるような、冷たくなるような、自分でもよくわからない。
「…私…宇野くんのことが…」

