翌朝
 起きない時間に目が覚め、寝返りを打ってみたけど眠れなかった。秋を見ると床に敷いた布団から足を出したまま、ぐっすりと寝っていた。


『ハァー……』


布団から出て、秋を起こさぬよう静かに窓を開けベランダに出た。
 霧のような小糠雨(コヌカアメ)を見ながら、水溜まりに足を浸し、楽しそうに笑う黄色い傘の少女を思い返していた。
 俺にもあんな頃があったんだろうか?全てが楽しいと思っていた時間が……


『今日もいるかな?』


もし居たときの為に、チョコレートでも持っていこうかと考え、思いとどまった。
学校が終わる頃には溶けて、とても食べれる状態にない筈だ。
 それからなんとなく、今日の雨は昼には止むような気がした。
あくまで俺の勘だけど……


「ん~……ふゎあ~」


いつ目を覚ましたのか、上半身を起こしアクビ混じりの伸びをしながら、秋がベランダにいる俺に何の疑問も持たずに「晴斗おはよ~」と言った。


『おはよう』


部屋に戻ると、ベッドに腰を下ろした。
 時計を見ると、ちょうど6時を過ぎた所だった。
目覚ましを切り、窓に目を移すと布団を畳みながら秋が「また雨か……」と呟いた。さっきまで俺の後ろで静かに降っていた雨に気づかず、音をたて降り始めた雨を見てため息をついていた。