『あ、晴斗だけど』


「晴斗?! いたずら電話かと思ってドキドキしちゃった」


俺だと分かり安心したのか、小さな笑い声が聞こえた。


『驚かせてごめん』


「どうしたの? 晴斗が掛けてくるなんて珍しいね?」


『うん、ちょっと聞きたいと言うか、言いたい事があって……』


 どう切り出そうか迷ってるいと、電話の向こうで誰かの話し声が遠くに聞こえ、直感的にスミレがからかわれてるんだと思った。
 それを証明するかのように、スミレが俺との仲を否定した。


「違う違う!ただのいとこだってば!」


苦しいほどバクバクしていた心臓が、たった一言でズキズキに変わった。
 やがて息が苦しくなり、泣きたくもないのに鼻の奧がツンとした。


「ごめん、もしもし?」


『ッ……うん』


なにも知らないスミレの声が、さらに俺の心に爪を立てた。


「なんの話しだっけ?」


『ぁ、今年さっ……花火大会、来る?』


「うん、行くよ?今年もお世話になります」


『そっかっ…それなら、良いんだ』


「ん?うん。晴斗、大丈夫?」


『なにが……?』


「何か、変だよ?」


勘づかれる前に伝えないと!その焦りが余計に呼吸を乱す。


『外で話してるからかな?』


そうごまかしてみたけど、なんか変だ。
目眩がする。朝食ちゃんと食べてないからかな?
目を閉じ深呼吸をすると、ザワザワと木が揺れる音に少しだけ心が落ち着く。
 目を開けると桜の葉の隙間を縫って太陽がチラチラ顔を覗かせた。


『キレー……』


ポツリと声に出た言葉に「晴斗?」
俺を呼ぶ声がした。


『ごめん。それで』

不思議なほど冷静な俺は自然と言葉にしていた。


『よかったらなんだけど、今年の花火大会、俺と一緒に行ってくれませんか?』


「え?」


『やっぱ嫌だった?…秋の方がよかった?』


自分で自分を傷つきどうして秋の名前が出たのか、笑えてくる。
そんな俺の耳に微かに「いく」と聞こえた気がした。


『ごめん、もう一度言ってくれる?』


フワフワする頭を必死に起こし、ケータイを強く耳に宛てた。


「絶対に行く」


『……分かった。来るの楽しみに待ってるから。』


「うん。」


そこから少しずづ気が遠退きだし、スミレとの約束を取り付け受かれてる俺は、会話もそこそこに電話を切った。
 どんな会話をして電話を切ったのか、少し前なのに思い出せない。
立ち上がるとフラフラ歩きながら、男子に『ありがとう……』と告げおぼつかない足取りで校内へ向かった。────


「晴斗!」


大声で名前を呼ばれ抱き締められた。


『しゅ……なんか、限界……』


安心した途端意識を失った。


「晴斗!おい!」


何度も聞こえた声に答えようとしても体が重たくて動かすことができなかった。