「でもそんな事父には言えなくて、陽向を諦めようって。
 でも、忘れようとするほど、アイツの笑った顔とか変な癖とか、俺にしか見せない顔が走馬灯みたいに浮かんできてさ。
 今まで一緒に増やしてきた思い出がどんどん出てきて、仕舞いには夢にまで。
だから、諦める事を諦めた」


『親はなんて?』


「母は俺が決めたならって喜んでくれてるけど、父は……見てみぬ振り。
未だに陽向の姉との結婚を進めてくる。
ちょっと良い子を演じすぎたかな?」


『……。』


どんな顔と言葉を掛ければいいのか分からず、目を逸らしてしまった。


「今は完全に俺の片想いなんだけどさ。陽向と婚約した日からずっと、陽向が答えをくれるのを待ってる。
どんな答えも受け入れるつもりだけど、ちょっと恐いかな。」


微笑む水沢の目は、メガネに反射した光に遮られ見えなかった。
 掛ける言葉も嘘すら浮かばないまま、暫く沈黙が続いた。────


「じゃあ、放課後保健室で」


予鈴が鳴る中、先に切り出したのは水沢だった。『ああ』と返す俺に、軽く手を上げ席に戻っていった。
 お互い想い合ってるのに、どうして気付かないんだろう?
″近くにいすぎて見えない″そんな言葉が頭に浮かんだ。先生も水沢も素直になればあんなに悩んでないんだろうけど。
って俺も人の事言えないけど……。
 席につき黒板を見つめる背中はあの日見た背中と何も変わらないのに、話を聞いたからかな?
見てると苦しくなる。水沢の背負ってる荷物はやっぱり俺より重いみたいだ。