部屋を見渡せば、いつ作っていたのか、飾りやHAPPY BIRTHDAYと書かれたカラフルな紙がリビングを囲んでいた。
 テーブルの上には俺の好物と『お誕生日おめでとう』と書かれたケーキが真ん中に置かれていた。


〈誕生日おめでと~~!〉


秋がクラッカーを鳴らし、スミレが紐を引けと急かした。


〈早く引いて?〉


ぶら下がる紐を辿ると、くす玉がぶら下がっていた。
 俺が帰ってきた時に聞いた音の正体は、これを付けてる最中の出来事だと知り、嬉しい反面内心複雑だった。


〈早く引けって!〉


秋に急かされ勢いよく紐を引くと、くす玉が割れ、お誕生日おめでとうと書かれた垂れ幕が下りてきた。


〈おめでとう!〉


 笑顔でお祝いの言葉を言う2人から目をそらした。ありがとうと言ったのかも分からないほど、胸が苦しくてうまく笑えなかった。


〈食べようぜ! 腹減った~〉


秋に背中を押され椅子に座り、スミレが取り分けてくれたご飯を無言で食べた。


〈んっ!うまい!!〉


秋が気を使って何度も美味しいと言っていた。スミレがバレないようにため息をついていた事も知ってる。
 素直に“ごめん”と“ありがとう”を言えていたら、こんな誕生日にならなかったかもしれないのに……一瞬でも二人を疑った自分が腹立たしい。
 ────ゆっくりと瞼を開けると、真っ暗な部屋が微かに明るかった。
ユラユラ揺れるカーテンの隙間から差し込む月明かりを見ながら、起きる前に聞こえた〈一瞬でも二人を疑った自分が腹立たしい……〉その言葉に返事をするように、1人呟いた。


『信じきれてないのは、今でも同じだ……』


 あの日の続きはハッキリと思い出せる。
偏頭痛に襲われる事もなく、ハッキリと──
 誕生日が終わった次の日、俺は秋と誕生日の事で派手に喧嘩をし、2~3ヶ月口を聞かなくなった。
そして、スミレも受験勉強に専念する為、家に来なくなってしまった。
 きっかけはいつも自分だということに今更気づいた。
勝手に好きになって、勝手に不安になって勝手に安堵して……また不安になる。


『全然成長してないじゃん……』


苦笑しながら、枕に落とし忘れた涙を拭った。