諦めようと決めたのに、なんで今更ズキズキするんだよ


《痛いじゃんか……》


 ドアの前にへたり込み、シャツの上から痛む胸を掴んだ。
 痛みが消えるまで、想いが消えるまで、そう呪文のように唱えながらきつく目を閉じ、痛みが去るのをそうやってやり過ごした。


 《ん……っ?》


いつの間にか眠っていたらしく、目を開けたとき視界が真っ暗で不安になった。
 そう言えばと、ドアに頭を預け微かに見えてきた天井を仰ぎ、こうなった経緯を徐々に思い出しタメ息を吐いた。


《……ん?》


頬に違和感を感じ、左頬に触れると水がついていた。


《泣いたのか……》


小さく息を吐きフッと笑った。
 あの二人、どうしてるかな?
涙を拭い、服を着替え部屋を出た。
 階段を一歩降りる毎に鼓動が早くなる。一階に着いた頃には吐きそうなほどドキドキしていた。


《ハァー……入りづらい》


テレビは点いてるのに、2人の声は聞こえず、ガラス越しに見えるのは、ソファーの上と下に座り無表情のままテレビを見る二人の姿だった。


《どうしよう……》


ドアノブを握ったまま突っ立っていると、中から〈あっ!〉と声がし、顔を上げるとスミレが近寄って来て勢いよくドアを開けた。
ただ呆然としている俺の腕を引き、ソファーの前に連れて来られた。


〈これ、引いて!〉


スミレが天井から伸びる赤い紐を、俺に渡してきた。


《これ……》


〈ハルを驚かせたくて、秋と頑張って付けたんだけど、晴斗変な誤解してるみたいだから……〉


目を伏せ耳を赤くするスミレが可愛くて、諦めようの決意が揺らぐ。