〈てるてる坊主てる坊主、あ~した天気にしておくれ~〉


 スミレが窓際にてるてる坊主を吊しながら歌っているのを、ソファーに座りながら見つめていた。
 秋はスミレに話しかけていて、俺はいつもそんな二人を遠巻きに見ていた。
 気づかれないようにと隠した気持ちは〈晴斗は分かりやすいからなぁ〉の一言であっさり秋に気づかれてしまった。


 それからの秋は、今以上にスミレにまとわりつき、鬱陶しがられなからもスミレを笑顔にしていた。
そんな二人を見る度、俺は適当に理由をつけてその場を離れた。


 いつからだろう?
胸の奥が得体の知れないものに支配されていくのを感じながら、平然と二人の元へ戻れるようになったのは。
 いつからだろう?
スミレを諦めようと思い始めたのは。


 ──職員室から解放され、誰もいない廊下を一人歩きながらまだ明るい空を見上げていると、胸の奥が急にざわつき始めた。
 胸をさすり、不安を消すように大きく息を吐く。


 不思議と何も起こらない帰り道の記憶は消えてしまったのか、帰り道だけはいくら探しても見つからなかった。
 次々に切り替わる景色の中、夢を見ているんだとういう意識がハッキリと分かった。