『なんで?』


「いや、なんとなく」


漫画に視線を戻し、正直に答えた。


『いないよ。気になる子もいない』


「そっか」


その「そっか」は俺の耳には良かったと言ってるように聞こえた。何かあるんだろうと思いながらも、敢えて聞かなかった。


「あとさ、同じクラスの東雲って知ってる?」


『東雲……?どんな?』


「んーと、いつも半分だけ縛ってて、ポニーテールの半分バージョンみたいな……」


そう言ってどんな髪型かを手振りで伝えてきた。


「授業中だけメガネ掛けてる」


あぁ、あの子か。
授業中にメガネと言われ、1人だけ顔が浮かんだ。授業中にチラチラ俺をみてくるあの子、東雲って言うんだ。
 気づいてないとでも思ってるんだろう、毎日同じ方向から来る視線に耐えかね、一度だけ振り向いた事があった。
目が合って驚いたのか、教科書を落とし先生に声を掛けられていたのを思い出した。


『その子なら知ってる』


「その東雲から、手紙預かったんだ、お前に渡して欲しいって……」


そう言いながら、白地に淡いピンクの桜が描かれた封筒を渡された。


『なんて?』


「え?」


『なんて書いてあったのか聞いてんの。読んだんだろ?』


秋が手紙を読んだことは察しが付いていた。それから、その東雲が好きなことも。


「お前が好きだって……つき合ってほしいって」


その言葉を聞いて、しまったと思った。秋にしてみれば嫌がらせ以外の何ものでもないのだから。
無意識とはいえ読ませてしまった事に変わりはなく、今更後悔しても遅い。


『そっか……ごめん』