嘘を混ぜた本当はいつか真実に変わるだろうか? 我ながらうまく言えたと自画自賛していると、水沢がため息をついた。


「お前が田辺みたいに単純バカだったら、こんな苦労しないで済むのに……」


 水沢への気持ちを隠し暮らす先生が、毎日好きな人に会えてる事が羨ましくもあり、自分と重なり苦しくなった。


『俺からも、質問良いか?』


「なに?」


『先生と水沢って、どんな関係?』


「“いとこ”って言葉で繋がれた“俺の女”になになる予定の関係。
 でも本当はいとこじゃなくて、ただの遠い親戚で、産まれる前から決まっていた切っても切れない鎖で繋がれた運命共同体?
 説明が面倒だからいとこって言ってるだけ。それに、アイツの家は二軒隣にあるっていうめんどくさいやつ。」


そこまで言うと深いタメ息を吐いた。


「あ、手だすなよ?」


思い出したように付け加える水沢は、振り向き真剣な顔から一変、ニッコリと表情を変えた。


『うん。』


“あり得ない”と自分では思っていても、他人には“あり得る”事なんだよな。
 先を行く水沢の背中を見ながら、この人は例え間違った選択をしても、それを貫くだけの勇気と力があるんだろうなぁ
なんて事を考えながら、遠ざかる背中を見ていた。


「置いていくぞ?」


俺の悩みがチッポケに思えるほど、水沢がカッコよく見えた。
カッコいいけど水沢の生き方、俺には無理だな……
 好きになった人がたまたま、なんて言葉が似合うのは、水沢みたいに覚悟を決めた人だけに許された言葉なんだろう。


『俺には何年掛かっても無理そうだな……』


俯き呟くと、待っている水沢の元へ歩いた。
 初めて水沢と長くいる気がする。


「秋はいつ頃学校出てくるの?」


沈黙の中いきなりの質問にすぐに反応できず、思い出すのに少し間ができた。


『……えっと、たぶん明日?』


「曖昧だな」


『秋は元気なんだけど、秋の母親が良いって言わないと。旅行から帰ってきて話すことがたくさんあるだろうし。』


フッと笑うと、水沢が眼鏡を直した。
そして再びの沈黙が訪れた。


「保健室でお前に会ったとき、嫉妬した。」


いつも突然過ぎる水沢の言葉に黙って耳を傾けた。


「俺に見せない顔で笑ってるの見て、冷静なふりしてたけど、あいつの事になると冷静じゃいられなくてさ、カッコ悪い所ばっかり……」


『先生言ってた。嫉妬するから困るって』


「そう」


『約束だから、内容は言えないけど、ほとんど水沢の話しだった気がする。』


「約束……そっか。」


それからポツリポツリ話しながら、学校を後にした。