最終的に秋に風邪を移され、俺は無事にこのお粥を食べることが出来た。
 それから風邪を引くことは無く、このお粥を見ることもなくなっていた。


『何で風邪なんか引いたんだろ?
傘、ちゃんと持ってたよな?』


そっとドアを開け部屋に入ると、秋は眠っていた。
 ベッドにテーブルを寄せおぼんを置くと、急に手持ち無沙汰になってしまった。
秋が起きるのを待ちながら、俺が出掛けた後に見ていたのか、開いたまま布団の脇に置かれた卒業アルバムを本棚に戻した。


『ふぅー……』


 ベッドに寄りかかり、お粥が入ってる鍋の蓋を開けては閉じをなんとなく2・3回繰り返した。
静まり返る部屋に、雨と寝息が響く。あまりにも暇すぎて、秋の寝顔を上枝をつき見ながら(起きろー)と念じてみた。


『起きるわけないか』


 今の状況に苦笑いしてると、ゆっくりと秋の目が開き、布団から出た手が俺の髪に触れた。


「髪、濡れてる……風邪引くぞ?」


ゆっくりまばたきをしながら、湿った髪を掴んだまま離そうとしない秋。
 この状況にヤメロと言えないほど驚き、動揺していた。
しばらくして大きなアクビをした秋は、髪を離すといつもの口調で「なにしてんの?」と言った。


『え……、覚えてないの?』


 あれだけ人の髪を触っておいて、記憶にないとか、寝ぼけすぎだろ


「俺、なんかした?」


 何事も無かったような振る舞いをする秋に、戸惑い少し恐くなった。
 さっきのアレは、なんですか?
眉間にシワを寄せ、秋から目を逸らした。