「秋くん?」


『え?』


「電話の相手」


『うん』


「ごめんね?私が引き留めてたから、アイス溶けちゃった?」


未だ顔を出さない東雲の傘が、少し下を向いた。


『溶けたらまた買えばいいし』


「あと、りの」


『ん?』


「下の名前、莉乃っていうの。お母さんが好きだったアイドルの名前なんだって」


『へぇ、かわいい名前だね?』


「かわいいのは名前だけで、本当は、純粋な妹が羨ましくて仕方ない嫌な姉なんだよ……?」


『なんか、俺と似てる。 俺も秋が羨ましくて仕方ない、嫌な幼なじみだから』


「秋くんの事、嫌いなの?」


『どうかな?人の心にも自分の気持ちにも鈍感らしいから、解ったら教えるよ』


「うん、じゃあ」


スーッと傘が上がり、俺の目の前に小指が差し出された。


『ん…?』


「指切り」


『あー、約束』


小指と小指を絡め“指切りげんまん”をすると、「私こっちだから」とT字路の左側で恥ずかしそうに笑っていた。


「じゃあ、また明日」


『うん』


互いに手を振り、少しずつ遠ざかる背中を見送った後、急いで帰った。