「どうしていつも、そんな顔するの?」


『そんなって?』


「うまく言えないけど、悲しそうな顔。」


『俺が?』


東雲は黙って頷いた。


『なにそれ、どういう意味?』


苛立ちを上手く隠せず、眉間に寄るシワを俯く事で隠した。
それでも落ち着かない苛立ちを東雲にぶつけようとしている自分にまた腹が立つ。


『ハァー。最低だ俺……』


つーか、何してんだろ。
こんな俺を見て、東雲は告白したことを後悔しただろうか?どうせなら、このまま俺を嫌いになってくれればいいのに。
 近くに東雲が振り向くのを待ってる人がいること、気づかない振りで通りすぎんなよ!
 半分自分に言い聞かせていた。
長い沈黙の後、東雲が「私のせい、ですよね?」と言った。


『いや、違っ……』


言い訳に続く言葉を選んでも、東雲を笑顔に変えるどころか、逆に作り笑いをさせてしまいそうで続きが言えなかった。
 ちゃんと説明しないと伝わらないことは頭では解ってるけど、それすらうまく伝えられそうになかった。


『俺──』


「ごめんなさい!!」


絞り出した声は東雲の声にかき消され、深々と頭を下げる東雲は、一向に頭を上げようとはせず、ずっとごめんなさいを繰り返していた。


『東雲、もういいから』


いくら言っても顔を上げない東雲に、次第に周りが騒がしくなり始め、通り過ぎ行く人が「あの子どうしたのかしら?」と囁きはじめた。


「怒らせたの私だし、余計な事言ったから!」


『いや、謝るの俺の方だし……。』


言い訳もごめんも言えないまま東雲から離れた。


『俺、先に行くな?』


どうする事もできず、東雲をその場に残しレジに向かった。


『お願いします』


「あのぉ……」


男性の店員が東雲をチラチラ見ながら、「大丈夫なんですか?」と聞いてきた。


『迷惑かけてすみません。たぶん大丈夫だと思うので……本当にすみません』


「いえ」


ピッ……会計をしている間、気になって振り返ると、その場にしゃがみ込み小さく肩を震わせる姿が見えた。


『……。』


「──ありがとうございました~」


会計が終わり、店を出るまで東雲を探したが、東雲を見つける事はできなかった。
 どこに行ったんだろ?


『ハァー……』


自動ドアをくぐり、傘立てから傘を抜くと、店の前で東雲が出てくるのを待った。