『体温計はとりあえず後にして……』


持ってきた物をベッドに広げ、秋にマスクをさせ、アイス枕を枕と交換し、熱冷まシートをオデコに貼った。


「冷たっ……ゴホッゴホッ」


体温計を渡しベッドに腰掛けると、友紀ちゃんから聞いた話しをした。


『さっき聞いたんだけど、夏子さん来るらしい』


「そう……ゴホッ」


『あと、友紀ちゃんに話して泊まってもいいって許可もらったから』


「うん。ありがとっ」


そこで会話が途切れた。
 ──ピンポーンッ
秋の咳が響く部屋にも、その呼び鈴の音が聞こえた。無意識とはいえ、階下の会話を聞こうとしている自分に苦笑した。なにしてんだ俺?


『あ、そう言えば風邪薬もらうの忘れた』


独り呟きながら、窓の外を見た。


『雨降りそうだな。……あの子、どうしてるかな?』


無駄に独り事ばかり増える。
 秋の苦しそうな呼吸を聞きながら、自分の部屋を見渡し、暇つぶしになりそうなモノを探した。
本棚に詰まった小説、写真集、マンガの背表紙を一つずつ目でなぞり、左下の端に纏めて置いた幼稚園からの卒業アルバムで目が止まった。


『アルバム……』


 一番端の卒業アルバムを取り出すと、ベッドに寄りかり表紙を眺めた。


『懐かしいなぁ』


中学校の卒業アルバムを見ながら、自分の言葉に違和感を覚えた。