「何見てんの?」


『別に……』


声を掛けてきたのは、幼なじみの秋(しゅう)だった。
秋は俺の逸らした視線の先をたどり、少女を見つけると、なんとも言えない表情を向け言った。


「お前……さすがにあれはねぇーよ!」


『はあ?』


「犯罪になるから止めとけ!なっ?」


何を想像したのか、ポンポンと肩を叩くと鼻歌混じりに先を歩いた。
 俺の秘密を見つけたとでも思ったのか、どこか浮かれて見える背中を見ながら、ゆっくりと一歩を踏み出した。
 黄色い傘がクルクルと回るのを目で追いながら、横を通り過ぎた時、少女が俺を見て小さく「あっ」と言った。


「お兄ちゃんバイバイッ」


振り返ると笑顔で俺に手を振っていた。 それに応えようと手を上げかけて腕が止まった。秋の呆れた顔が浮かび、そっと手を下ろした。


『バイバイ……』


微かに微笑んでいると気づいたのは、その時だった。バイバイと口にしたほんの数秒間、唇の両端が持ち上がっているのを感じた。
 振り返ると苦笑いの秋が俺を見て「お兄ちゃんねぇ~」と眉を上げた。


『お前もあの子から見たらお兄ちゃんだろ』


「まあ、そうだけど」