『誰と話してるの?』


「え?」


振り向いた友紀ちゃんの手には携帯が握られていた。
 『なんだ、電話か』ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、「夏子帰ってきたから、お土産もってくるって!」と嬉しそうに話す友紀ちゃんに、俺は慌てて事情を説明した。
 秋が熱を出し、家に帰りたくないと言った事と頼まれていないけど、夏子さんには黙っていて欲しいと伝えた。
それを黙って聞いていた友紀ちゃんは、「仕方ないわねぇ、ちょっと不安だけど」と優しく笑った。


「秋くんは晴斗の部屋にいるのね?」


『うん』


「時間が無いわね……」


時計を見ながら呟くと、テキパキと動き始めた。「はい」と渡された物は、体温計に、熱冷まシート、アイス枕とマスク二枚だった。


「マスクは晴斗もしてね?アイス枕はタオルでくるんで、あとは分かるわね? 夏子が帰ったら様子見に行くから」


『うん』


 慌ただしくリビングを出ると階段を上がり、部屋の前でマスクを付けた。
起こさないようそっとドアを開けると、くの字に身体を曲げながら咳をする姿が見えた。


『大丈夫か?』


「んっ、大丈夫、大丈夫っ……」


ヒラヒラと手を振りながら強がって笑おうとする秋に、ため息が漏れそうになった。(なんの為の幼なじみなんだよ)そんな怒りが燻っていた。