そんなことを話していると、玄関の扉が開いた。同時に振り向く俺達の姿が見えていないかのように玄関先に座り、両手で靴を引っ張りながら脱いでいた秋に『今日は遅いのな?』声を掛けしまった!と思った時には遅かった。
 振り向いた秋は「おう!」と手を挙げると、なにも言わずに真っ直ぐリビングに入っていった。


『……なんだアイツ?』


「ハル~」


『うわっ!!』


振り向いたスミレは、また髪の毛をクシャクシャにしながら楽しそうに笑っていた。その笑顔は見とれてしまうほど綺麗で、可愛くて、目が離せなかった。


「悩みすぎるなよ!?」


ポンッと肩を叩くと、リズミカルに階段を下り俺を見上げ囁くような声で「傷つけてごめん」そんな言葉が微かに聞こえた。
 どういう意味なのか、聞き返す間も与えず俺に手招きをした。


『なに?』


ダルそうに、隣に並ぶといきなり背中を押された。


『なに?!』


「先、行ってくれる?」


背中にスミレの温度を感じながら、扉に近づくと、ワザとゆっくりドアノブを捻った。スミレが僕のシャツを掴んだ時、ドキッと大きく心臓が動いた。
 もう少しこのままで……なんて、ドキドキを緊張のせいにして、扉を開けた。