どうしてか、俺はそのハシャぐ姿から目が離せず、そのまま見つめていた。
あんな風になりたいと、楽しそうだと頭の片隅の奥の方で思っていたんだろうか?しばらくして再び振り返った少女は、僕の前にやってきて笑顔を向け言った。


「どうしてつまらないの?」


ドキッと音が聞こえた気がした。
表情として出ていたことよりも、無垢な笑顔に心の中全てを読まれた気がして、恥ずかしいのに、嬉しいと思う自分がいた。
 そして、僕の顔を覗き込む少女に『退屈だから』と答えた。


「たいくつ?」


『つまらないって意味。
僕にはこの世界の全てがつまらなく見えるんだ』


「かなしいね?」


初めて少女から笑顔が消えた。哀しい?そんな事を言われたのは初めてだった


『哀しい……か』


少女から目線を逸らした瞬間、小さな腕が俺に向かってくるのが見えた。


「はい、アメあげる!」


『え?!』


うんと伸ばした小さな手には、赤いアメ玉が一つ乗っていた。


『僕に?』


「うん!」


戸惑いながらも受け取ると、自分には不釣り合いなほどキラキラしたそれをそっと握りしめた。


『ありがとう』


「アメはね、かなしいかなしいをなくしてくれるんだよ?」


そう言ってまた僕に笑顔を向け、元居た場所に戻っていった。
 水溜まりを跳びながら、楽しそうに笑う少女を見ていると、肩を叩かれ我に返った。