「で、その飴どうしたの?」


深呼吸をしてから秋の問いに答えた。


『もらった』


「誰に?」


『女の子』


「女の子?」


『お前も知ってる子だよ、黄色い雨合羽きた、小さな女の子』


飴玉に視線を向けながら説明すると、秋が何かを思い出したような声を出した。


「あ~、あの学校帰りに話してた女の子?」


うんと頷いた。


「雨ん中1人で遊んでた?」


また、うんと頷いた。


「マジか……」


『この飴玉、喰うなよ?』


「誰が食うかよ!!」


『……なあ、俺って、そんなに笑わない?』


「なんだよいきなり。まぁ、そう言われるとあんま見ないかも、晴斗の笑顔」


『そっか。……この飴はさ、俺が笑った回数なんだよ』


「フッ。そういえば、あん時の晴斗いい顔してたもんなぁ……」


遠い目で話す秋は、微かに笑っていた。
 ふと窓に目を向けると、雨は止んでいた。音のない空には、ただ白く丸い太陽が、影のようにそこにいた。


「やっと晴れたんだ、夕方だけど。」


『やっと、か……』


1人切ない気持ちになっていると、隣で秋の腹が鳴った。


「今日の晩ご飯なんだろ?」


『手作りハンバーグ』


無言でガッツポーズする姿を見て、まだ秋の両親が帰っていないのを知った。
 その日の夜、まだ片づいていないリビングでの夕食になった。
友紀ちゃんは「すぐ片づけるから」なんて言ってたけど、さらに増えた荷物の山が消えるのは、たぶん3日かそれ以上になるだろうと勝手に予想した。