『……帰ろっ』


カバンを掴むと、誰もいない教室を後にした。
 廊下を抜け、来たときよりも軽い足を動かしながら、最後の数段を飛び越し下りた。
窓の外では、弱まった雨が未だに降り続き、覗いていた青空は分厚い雲に隠され見えなくなっていた。


『そろそろ止めよ、バカみたいに降りやがって』


空に悪態をつき靴に履き替えると、カバンの中から予備の傘を取りだした。
 持ってきたハズの自分の傘は、東雲が書いたメモに変わっていた。


『傘、勝手にお借りします。東雲』


 ──ボタボタと降ってくる音から逃げるように、耳にイヤホンをはめた。 適当に流した曲は半分が雨で遮られて殆ど聞こえないけど、こうして聞いてる方が逆に曲に集中出来たりする。
 ひたすら雨と変わらぬ景色を眺めながら、ケータイを見ようとポケットに手を突っ込んだ時、何か尖ったモノが指をさした。


『痛っ!』


反射的にポケットから引いた手を再び入れると、小さな袋のようなものに当たった。


『あれ、これって……』


それは、黄色い傘の少女にもらったしずく玉だった。窮屈そうに袋の中にいる赤い飴玉は、子供が食べるには少し大き過ぎる気もした。
 しばらく飴を見つめ、食べようか悩んで結局ポケットにしまった。


『はぁー…』


肩に背負ったカバンを直し、さっきまで一緒だった東雲の顔を思い返していた。
 時々胸の辺りがズキズキ痛むのを気にしながら、本当にあれで良かったんだろうか?と考えた。