いとこ ~2度目の初恋~

 ──体が温まった頃、一階に下り庭で花火を始めた。
 友紀ちゃんが用意してくれたバケツに水を汲み、花火の袋を開けると、ロウソクの火種に手持ち花火を近づけた。
 一瞬火が消え、勢いよく出た火花を合図に次々に花火に火が点いていく。
 横一列に並び、今日最後の思い出作りが始まった。花火で映し出されるスミレの横顔が楽しそうで、自然と笑顔になる。


『楽しそうでよかった。』


 呟くと、シュンと花火が消え一瞬目を離した隙に隣がパアッと明るくなる。つられるように見るとスミレがこっちを見ていた。
 不意に目が合い、ニッコリ笑いかけるスミレに微笑むと二つ目の花火を手に取った。
 

「ほら」


と花火を差し出され、火種をもらうと水沢が「少しいいか?」と二人から遠ざかる。


『どうした?』


「ムカつくから引き離した。」


『なんだそれ?で、なに?』


「俺ちゃんと向き合おうと思うって報告。親とちゃんと向き合ってみる。
今まで言えなかった気持ち、反対されるの覚悟で全部言ってみる。
 陽向の気持ちが分からないから、なんとも言えないんだけど、それもケリつけないとって……」


『そっか。』


「良い報告ができると良いんだけど。」


『気長に待つよ。』


笑顔を作るけど水沢の目は不安でいっぱいだった。
 ちょうど花火も消え、二人のもとへ戻ると、元気のない水沢に気づいた先生が話しかけていた。


「なんの話してたの?」


「……」


なにも答えない水沢の代わりに『これからの事を話してたんです』と自分で言って可笑しくなった。


『先生少しいいですか』


今度は先生を不機嫌になる水沢から遠ざけた。


「どうしたの?」


『いつ返事するんですか?』単刀直入に聞くと、驚いたあと「拓海がなにか言ったのね?」とため息をついた。


『先生にはお世話になったので。恩返しじゃないですけど、水沢言うみたいですよ?』


「……そんなお返し要らないわよ。拓海を待たせ過ぎたかな?」と微笑んだ。


『水沢が切り出すまで待ってあげてください。真剣みたいだから。』


俺もあんな風に誰かを深く愛せるのかな?
 スミレへの気持ちが愛に変わった時、スミレも同じように僕を愛してくれるだろうか?


「そろそろ戻ろうか?拓海がヤキモチ妬いてる」


クスッと笑うその顔は少し晴れかに見えた。──


『ただいま』


「おかえりなさい」


『! スミレにおかえりって言われると、慣れてないからくすぐったい』


 二人がどんな風になるのか分からないけど、今はこの瞬間を楽しむ事に専念することにした。
 ───一袋の花火が無くなるのはあっという間で、楽しいと思える時間もあっという間だった。
 片付けを済ませ家に入ると、スミレの姿がなく友紀ちゃんの姿もなかった。
 キョロキョロしてる俺に、先生が着替えに行った事を教えてくれた。その隣では元気になった水沢がクスクスと笑っていた。


「そんなに心配なら紐でも付けておけば良いのに」


 冗談だと分かっていてもイラッとする。俺の代わりに先生に怒られてるのを横目に、時計に目を移すと10時を5分程過ぎていた。


『先生疲れてるのに、こんな時間まで付き合ってくれてありがとうございました。』


「ううん、楽しかったし、収穫もあったから。誘ってくれてありがとう」


『またみんなで花火ができると良いですね?』


 ニッコリ笑い頷く先生の顔が何かを決意したように見えた。


「櫻井くんにはああ言われたけど、帰りに伝えようかなって?」


『そうですか。』


「うん」


 俺たちのやり取りを黙って聞いていた水沢は、不機嫌な顔を俺に向け「陽向、そろそろ帰ろ?」と立ち上がり、差し出すその手を何の迷いもなく握る姿が微笑ましくみえ思わずニヤついてしまった。
 玄関先まで見送ると、「スミレさんによろしくね?」と先生が振り向きながら言ったのに続いて、「じゃあ、また学校で」と水沢が続けた。
 家に着いたらメールすると言う水沢の言葉を断り、笑顔でサヨナラをした。