いとこ ~2度目の初恋~

 神社を後にする人も途絶え始め、花火の時間が迫ってるんだと気づく。


『そろそろだな?花火』


「うん」


『人すごそうだなぁ……。』


「毎年増えてない?」


『それほど楽しみにしてる人がいるんだな。で、俺たちはどうする?』


静かになった屋台を眺めながら訪ねると


「ここ以外ならどこでもいいよ?」


『んー……どこかあったかな?』


「晴斗の部屋からも見えなかったっけ?」


『見えるけど……』


「ダメ?」


『……行きたい所とかない?』


「んー……」


悩む顔もかわいいと思う裏で、あれっきり見かけない水沢と先生の事が気になった。


『あの二人、どこ行ったんだろう?』


「ん?」


『何でもない。で、どこに行きたい?』


「まだ。行きたい所がありすぎて……」


『スミレと一緒なら俺はどこでもいいけど』


「だから、悩んでるのに」


眉をへの字にしながらため息をつく横顔を見ながら、小さな幸せを噛み締めていた。


「…………そうだ!聞きたいことがあったんだ。」


『ん?なに』


「水沢さんと先生って、どんな関係なの?」


『え?……少し複雑なんだけど。
幼馴染みで、許嫁で……表面上はいとこの生徒と保健の先生。
……言葉にするとすごいな……』


 苦笑いしてるとスミレが困った顔をしていた。


『つまり、お互い好きなのに恋人になれてない関係。』


……俺たちみたいに。


「なんか、似てるね?」


『え?』


「ううん。」


 地面を見つめるスミレの横顔が綺麗で見とれていると、急に振り向くから分かりやすく顔を背けてしまった。


『しゅ、秋たち遅いな?』


「そうだね」


『……取り敢えず出ようか?』


「うん」


 途切れた会話の後、暫く無言のまま動けずにいた。
 こんなに沈黙の時間がドキドキするのは久しぶりで、触れるか触れないかの肩が動く度、いちいち反応してしまう自分が恥ずかしい。


「花火大会が終わったら、暫く会えないね?」


『え?』


突然切り出された言葉に、急に現実に引き戻された。


「これが終わったら帰らなきゃ。友達と旅行に行く約束しちゃったから。」


『……そっか。』


 もうそんなに過ぎたんだ。
俺がモタモタしてるから。
……もっとスミレの側に居て、たくさん話せばよかった。
そんな後悔の念に駆られていると


「寂しい?」


『ん?』


「私が帰ったら、ハルは寂しい?」


『……どうかな?』


 本当はすっごい寂しい。
そう言ったら、スミレはなんて言うかな?“私も”って言ってくれるのかな?


「……ハルは、私が帰った後どうするの?」


『どうするんだろう?』


 スミレの事が気になって、なにもできなくなりそう。


「……急に距離を置くんだね……」


距離を縮めたらうっかり好きだと言ってしまいそうで。
 スミレに悲しい顔をさせるために距離を取ったわけじゃないのに、必然的にそうなってしまうのが苦しかった。
 ごめん。なんて言ったらもっと止まらなくなるから、心に留めて自己完結した──


『旅行って、どこいくの?』


「教えない。」


『……。』


唇を尖らせ拗ねるスミレは、チラッと俺を見て反応を伺っていた。


「ハルよりカッコよくて、ハルより素直な男友達と一緒に行くの!」


『そう。』


 ヤキモチ焼を焼かせようとしているのがバレバレだけど。それにまんまとハマる自分が悔しい。


『……ハァー』


また胸の奥がチクチク痛む。
 俺の返事にさらに煽る言葉を口にするスミレは、俺になんて言って欲しいんだろう?


「ケータイ繋がらない場所だから、ハルと話せなくなるけど、ハルは大丈夫そうだから関係ないよね?」


『そうだな……。はぁー』


 今スミレの顔見たら、酷いこと言いそうで必死にブレーをかけていた。
 俯いていても、声で表情が読み取れるほどスミレは怒ってた。
いや、ムキになってる。


「もしかしたら告白されるかも?!私意外にモテるらしいから!」


『へぇ~。で?告白されたら付き合うの?』


「付き合うかもね!?」


『……そっか。そうだよな、決めるのはスミレだし俺が嫌だなんて言う権利無いよな』


どうしてこんな話になったんだろう?
ああ、俺が寂しいって素直に言わなかったからか……。


「なにそれ……」


鼻の奥がツンとして、涙が滲んだ。


『ごめん』


「……ばか。」


『晴斗はズルい!って言わないの?』


少し鼻声になってるの、気づいたかな?


「思ってても言わない。」


『思ったんだ。』