──歩き出して程なくだった。


「ねえ、あの子じゃない?」


 そう言って指差した先は綿飴が売られている屋台で、目の前には綿飴を作る姿をジーッと見ている見覚えのある女の子が居た。


『飴、かな?』


確認するため近づくと、微動だにせず眺め続ける飴がいた。


『飴?』


名前を呼ぶと、振り返った飴はパアッと笑顔になり俺の足に抱きついてきた。


『なにしてたの?』


「見てたの!」


しゃがんで目線を合わせると、ニコニコと楽しそうに笑っていた。


『楽しい?』


「うん!」


『そっか』


立ち上がると綿飴を二つ買った。
一つは飴に、もう一つはスミレに。
 嬉しそうに袋を抱え、綿飴を食べる飴は「ありがとう」と口一杯に綿菓子を頬張った。
 飴が持つと大きな袋も、スミレが持つと小さく見える。


『どういたしまして。秋に連絡しないと』


 飴が見つかった事を電話で伝えると、安堵の声が返ってきた。
 その後のやり取りで、鳥居で落ち合うことになり、鳥居に向かうまでの間色んな屋台に立ち寄った。
 焼きそば・たこ焼き・リンゴ飴を買い、金魚すくいを眺め、射的をして、ヨーヨー釣りをし変なお面を買って3人で着けた。
 スミレとふたりでとはいかなかったけれど、これはこれで楽しかった。
 ──待ち合わせの場所に着くと、落ち着きなくウロウロする東雲を見つけた。
 飴は東雲を見ると一目散に駆け寄った。


「ねぇちゃ~ん!」


「飴!よかった~」


飴を抱き締めへたりこむ東雲は安堵の笑みを浮かべた。


「迷惑かけてごめんなさい」


頭を下げる東雲にリンゴ飴を渡した。


『ずっといい子だったよ?綿飴作る所すっごい見てたけど。』


「わたあめ……?お金はいくらか持たせてたんだけど。足りなかったの?」


「なにもかってないよ?」


浴衣の裾から巾着を出すと東雲に見せていた。


「そう……」


『飴も見つかったし、二人ももう一度楽しんできたら?
 そろそろ花火が上がる時間だし、今なら並ばなくても買えるだろうから』


気づけばあれだけ居た人の群れもどこへ行ったのか、境内を見ながら悩む二人の背中に最後のひと押しをした。


『腹へってんだろ?』


「そういえば、焼きそば買ってまだ食べてなかった。
そんな雰囲気じゃなかったし……」


冷めた焼きそばの袋を見る秋に『行ってこい』と送り出した。


『妹は俺が見てるから』


 東雲の手を握り、嬉しそうにヨーヨーで遊ぶ飴に目を移すと「ありがとう、でもそばにいないと不安だから連れてくね? 飴、もう一回屋台見に行こう?」


「うん!」


『……そっか。』


二人のやり取りに胸の辺りが暖かくなる。


「せっかく言ってくれたのに、ごめんね?」


『いいよ、俺も気持ちわかるから』


東雲はスミレをみた後何度か頷いた。


「秋、行こう?」


「ああ……。じゃあ、行ってきます!」


『いってらっしゃい』


3人を見送ると、近くにあった石のベンチに並んで座り買った物を広げた。
 少し冷めたタコ焼きと、焼きそばを二人で分けて食べた。