そんな事を考えながらその時を待っていると、秋から《東雲の仕度がまだかかるみたいだから、遅れそうだったら連絡する!》とメールが来ていた。
それに《ギリギリまで待つよ。》と送り空を見上げた。


『はぁー......』


 この先、胸が締め付けられるほど誰かを愛する事があるんだろうか?
ふと思った問いの答えが何年、何十年後にもしあったとして、その相手がスミレであって欲しいと願うのは、やっぱり間違ってるんだろうか?
 俺以外の隣で笑うスミレを想像するだけで、こんなに不安になるくらいスミレを……
 ───コンコンッ!


『……はい』


ゆっくりとドアを開が開き、浴衣姿のスミレが俺の前に歩いてくる。


「待たせてごめんね?」


小首をかしげ謝るしぐさがかわいくて、衝動に任せ腕を引き──


「晴斗?!」


抱き締めた。
 腕の中で小さく抵抗するスミレを離す間際、後ろで纏めた髪に蝶々の飾りがチラリと見えた。


「どうしたの!?」


『ごめん、可愛すぎて......不安になる。』


 小さくなる声にスミレの顔が赤くなった。


『髪飾り、似合ってるよ』


「ありがとう」


 照れてる顔を見ながら、今しかないとポケットに手を入れた。


『……あのさ、スミレに渡したいモノがあって』


「え? なに?」


『お守り。』


「お守り?」


『うん。』


ポケットから小袋を出すと、スミレの目が釘付けになる。


『手、だして』


両手を差し出すスミレの手に小袋を乗せると、開けるよう促した。


『一応、お揃いなんだ。』


袋を開け、手のひらに出た指輪を見て驚き「これ……どうして」と今にも泣きそうな顔で俺を見た。


『髪飾り買ったときにこっそり買ったんだ……。それは男用だから指に嵌めるとブカブカになるけど。......スミレのはココ』


服で隠れたネックレスを取り出すと、指輪が光った。


「……?」


『さっき、することなかくて暇だったから、その指輪はめてスミレの事考えてた。』


 言った後で恥ずかしくなって、苦笑した。ネックレスを外しスミレの手に指輪を乗せた。


『なくさないように……チェーン付けたんだけど、こっちにいる間はチェーンに通しててほしい。』


「なんで?」


小さな手のなかで並ぶ二つの指輪を俺に渡すと、左手を差し出した。


『スミレが帰ったときに指に嵌めてほしいから。あのさ……間違えてる?』


そう訊ねると、首を振った。


「こっちがいい。薬指ね?」


潤んだ瞳と笑顔が俺の胸を締め付ける。
 ドキドキしながら薬指にはめると、知らぬ間に止めていた息を一気に吐き出した。


『なんか、プロポーズしてるみたい』


そう笑ったら、嬉しそうに「うん」とハニカンだ。


『ほんと……はぁ。』


(ずるい。)
 スミレは俺の事、どう思ってるんだろう?言動をみる限り俺の事を好きだと取れるけど、俺の勘違いかもしれないし・・・。


「晴斗?」


『ん?』


「指のサイズ言ってないのに、ピッタリ……」


『手繋いでる時、感覚で覚えた。このくらいかな?って』


「そうなんだ」


 嘘。本当は友紀ちゃんに協力してもらって、それとなく探りを入れてもらったんだけど。
 顔を赤らめ指輪を眺めるスミレの首に腕を回し、俺の嵌めていた指輪をスミレに着けると、スミレの指から指輪を外すのを名残惜しそうに見めていた。


『離れてても近くに感じれるように。……なんて』


スミレは微笑みチェーンを着けたまま指輪を自らの指に嵌め、「あ、入った!」とはしゃいでた。
 その姿をしばらくみていると、浴衣の中に指輪を隠し、俺をみて笑った。


「無くさないように!」


『……どこまで可愛いんだよ……』


噛み締めるように言うと、もう一度抱き締めスミレを困らせた。


「晴斗?」


 そんな甘い空気を壊すように、ケータイが鳴った。