無言のまま歩き続け、屋根の付いたバス停に着いた時にはすっかり体が冷えてしまった。
 ベンチに並んで座り、バスが来るのを待つ間にも、雨の勢いは弱まる事なく、コンクリートにぶつかって弾かれる雫が歩道の溝に沿って流れていた。


『少し寒いな?』


「うん」


やっと聞けた声はか細く、体は震えていた。雨で巻き上げられた風が足元からさらに体温を奪っていく。


『もう少しこっち。くっついてれば暖かいから。』


体温がハッキリ伝わるほど密着すると、震える身体を抱き寄せた。


『ごめんな?服濡らさなかったら、貸せたんだけど』


雨で濡れた肩は冷たい筈なのに、不思議と温かかった。


「ううん。晴斗温かい……」


『ん?よかった』


 ふと我に返り周りを見ると、俺たちしか居なかった。こんな大雨になるって知ってたらもっと暖かい格好させたのに。


『──バス遅いな?』


 改めてこの状況を見ると、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。


「晴斗」


『ん?』


振り向き様におでこを触られ、あまりの冷たさに全身に鳥肌が立った。


『なに?』


「顔赤いから、熱でもあるのかと思って。でも違うみたいでよかった」


ホッとした顔のスミレは、ジッーと俺を見て目を逸らした。


『……ん?』


 再びの沈黙に、雨と車が通り過ぎる音が暫く続いた。隣では俯いたままのスミレが、小動物のように手を動かし温めている。


『……。』


 ──言葉より先に手が伸びていた。
せかせかと動く手を握ると、ギュッと握り返してきた。
 その時スミレの唇が動いたけど、何て言ったのかは読み取れなかった。