ため息の後雨の中に傘を開くと、スミレは嬉しそうに傘に入った。


『もう少しこっち。濡れるから。』


「うん」


何気ない会話を繰り返し、またスミレの事を知っていく。何が好きで、何が嫌いか。
 子供の頃と変わらない食の好みも、大人になって少しだけ変わっていた。
 改めてな事ばかりを質問しされながら、バス停までゆっくり歩いた。
 穏やかだった雨は次第に激しくなり、傘に落ちる雨音がウルサいくらいに大きくなった。


『……雨の匂い』


濡れたアスファルトなのか、土の匂いなのか。舞い上がる風に乗って鼻先へ届く匂いが昔から好きで。昔、雨の匂いは虹の匂いだと聞かされてから、今でも嘘を信じてたりする。


「虹の匂い。」


その嘘を教えてくれたのがスミレじゃなかったら、嫌いになっていたかもしれない。


「本格的に降って来ちゃったね?!」


『だな』


無意識に聞こえるようにと互いに耳元に顔を寄せ話してるせいか、いつもよりスミレを近く感じた。
 歩みを早め、バス停までスミレが濡れないよう傘を傾け歩く。


「晴斗、肩濡れてる」


そう言ってまた近くなるスミレの身体がぶつかる度、肩が熱くなるのを感じた。


『俺は濡れても大丈夫だから』


「ハルが風邪引いたら私が困る」


『……俺は、嬉しいかも』


「どうして?!」


『スミレがずっと側にいてくれるなら、風邪引きたいなって』


スミレは顔を赤らめ俯いてしまう。
 その横顔を何度見てきただろう?
浅く息を吐き、濡れた靴先を見つめた。