雨音に耳を傾け空を見上げると、分厚い雲も白い太陽の影すらなかった。


「──何見てるの?」


玄関が開く音の後に、雨に混ざって微かに甘い香りがした。


『太陽探してた』


空から目を逸らすことなく答える俺に、スミレの頭が動くのが視界の端に見えた。


「やっぱりめんどくさい?」


『なにが?』


「お出掛け」


『めんどくさいって思ってたら、その時点で行かないって言ってる』


「そっか」


ポケットから鍵を出すと、鍵穴に差し込む。


『忘れ物は?』


「ん~……ない!」


カバンを覗きチェックするスミレの周りには、傘らしき影が見あたらなかった。


『なあ、傘は?』


「ん?晴斗が持ってるじゃん」


『え?』


「ん?」


『一緒に入るの?』


「ダメ?」


小首を傾げるスミレに、ドクンッと大きく心臓が動いた。


『っ、ダメじゃないけど……濡れるぞ?』


 傘の柄を持つ手に力が入った。
どうして次から次へとドキドキすることばかり……


「いいよ」


 スミレの事、知らなすぎなのかな?俺。
メイクしてる顔も、再会した時以来か。
スッピンの方が幼くて可愛いのに。