いとこ ~2度目の初恋~

「気に入った?」


『……はい。』


「それはよかった。」


『一人だと入りづらいですけど……。』


「外観があれだから、男の人は特に入り辛いかもね?
じゃあ、慣れるまで私が一緒に来てあげる。」


『おまけ、がほしいからですか?』


「あたり~」


ニコニコと嬉しそうに笑う顔がスミレに似ていて、やり取りを思い出して胸が切なくなった。


「お待たせ致しました。」


そう言って目の前に出されたのは、真っ白なカップの中で堂々としているブラックコーヒーだった。
 隣を見ると、冷えたカフェオレのグラスがうっすらと汗をかき始めている。


『いただきます。』


湯気立つコーヒーの香りに惹かれるように、そっと飲み口を唇にあてた。
少し口に含んだだけでおいしいと出かかったのは初めてだった。
苦いのに甘い……


「いかがですか?」


自信ありげに笑みを浮かべるマスターに素直に『おいしいです』と答えた。


『苦いのに甘くて……すごく美味しいです。』


素直に思ったことを伝えると、マスターは微笑んだ。


「それはよかった。」


それだけ言うと、僕たちに背を向け手際よく材料を切っていく。


「ここのが一番おいしいから」


と頬杖を付きマスターの背中を見つめている先生は楽しそうに見えた。


『先生……楽しいですか?』


なぜかそんなことを聞いていた。


「楽しいわよ?それなりに。
大変なこともあるけど、それ含めての仕事だし。」


突然の質問に驚く事なく淡々と話すとコーヒーを飲み「君は?」と振り向いた。


『僕ですか?』


「楽しい?」


その言葉と聞くと、飴を思い出す。
思い出す度に頭の中で答えてきたけど、今は、わからない。
楽しいのか、つまらないのか。
答えがその2択しかないのなら、どちらでもない答えを示すだろう。


『苦しい……ですかね。
学校は前より楽しいです』


「苦しい、か……そうだよね。じゃなかったら、雨の中傘も差さず突っ立てたりしないものねぇ」


『……先生、雨って好きですか?』


「雨って、降ってくる雨?」


コクりと頷く。


「日によって違うから、どう言ったらいいのか。でも、嫌いじゃないかも。」


『そうですか。僕は、今日の雨が一番好きです。泣きやすいから。
……笑いたいなら笑ってください。』


「私も泣きたい時散歩したりするから、気持ちわかるな。」


『……よかった。』


先生はフフッと笑って、マスターの背中を眺め「拓海がここに来たがらない理由教えてあげようか?」といった。


『聞いてほしいなら、聞きますけど。』


先生はまたフフッと笑って、「私がマスターと仲がいいから。焼き餅じゃないけど、マスター大人だから自分が子供に見えたのかなって。
 喧嘩する度マスターが出てくるし……私が好きなのはマスターじゃないのにね?」


瞼を伏せ、力なく笑う先生に『ちゃんと言ってあげないからですよ。』と自分に言い聞かせるように言った。


「厳しいんだね?」


急にマスターの声がし顔を向けると、にっこり笑い目の前にオムライスを置いた。


「陽向と拓海くんの事はある程度知っていたけど、俺の存在がふたりの中を引き離してまっているんだとしたら、悪いことをしたね?」


「マスターのせいじゃないよ。」


そう言ってオムライスを食べ始める。


『これでも深刻なんですよ?』


「拓海、なんか言ってた?」


『なにも。でも、見てればわかります。
これでも、友達なので……。』


「そっか……やっぱり、おいしい」


「冷めないうちに召し上がれ」


マスターの声に頷きスプーンを手にした。


『いただきます……』


「君はおもしろい子だね」


『僕ですか?』


「そう、きみ。
あんな外装で入り辛いかもしれないけど、また来てくれるかな?」


マスターは優しく微笑み、僕の目を真っ直ぐ見た。


『あ、はい……。』


「次は君の食べたいものを作ってあげるよ」


『は、はい。考えておきます。』


またドキッとしてしまった。
大人の色気なのか、余裕の笑みが男から見てもカッコいい。
 その後、オムライスを食べながらマスターや先生の話を聞いていた。


『──ごちそうさまでした。』


店を出たのは夜だった。
友紀ちゃんに電話をかけ、先生に途中まで見送られ家に帰ると、スミレが玄関の外でに立っていた。