…何かくれって事だろうか?
いや、でも私は何も持ってないから困る。敵意のない人の差し出された手を振り払う事も出来ないし、どうしようか…と思い悩んでいると、
「王子様は姫君に手を差しのべることは当然の義務ですから」
―――もう、私は先輩の思考についていけません。
いや、ついていこうと思った事はないけれど。ついていきたいとも思わないけれど。
「その姫がもし逃走した場合王子様はどうするのですか?」
自分は決して姫だなんてキャラではないけれど。
コレはたとえだ。たとえで仮定話の結末を教わるだけだ。
「追いつくまで追いかけて、どこにも逃げられないように熱い抱擁を交わすよ」
この言葉で私はその未来を想像するまでもなく、すぐさま彼の手に自分の手を重ねていた。
輝く笑顔に気圧されながら手を繋いで教室へ戻ると、やっぱり皆の注目を浴びてしまった。
いや、手ぐらいなら可愛いものだ。
抱擁なんて、きっと骨がきしむぐらいに抱きしめられて資料室みたいな感じになっていまうんだ。あんなのは絶対ゴメンだ。
そして先輩は教室まで送り届けると、とてもご機嫌な様子で去っていった。
…漸く嵐が去った…


