「理事長。それでは私達もこれで。お忙しいところお時間を頂きありがとうございました。」


ヤマト兄がタイミングを見計らったようにそう言って頭を下げたので、慌てて俺も頭を下げた。


「うん。まぁ担任を早瀬先生にしたから大丈夫だとは思うけど、もし何か困った事があったらいつでも理事長室においで。」


優しくそう言ってくれた理事長に俺はもう一度お礼を言うと、ヤマト兄と一緒に理事長を出て教室に向かった。



理事長は想像してた通りでいい人だったけど、やっぱり俺自身凄い緊張してたみたいだ。理事長室を出た瞬間ハァっと息がもれた。


「なんだよ?遥、そんなに緊張してたか?」

俺のため息を聞き逃さなかったヤマト兄が即座につっかかってきた。


「そりゃあ!緊張するよ!」


「まぁそうだよな。」


「あ、そういえば途中で入ってきた女の人も教師?凄い美人だったけど。」


象牙色の肌にサラサラの長い黒髪。
背筋をピンと伸ばし、凜とした空気を身にまとった姿は…そう、大和撫子そのものって感じだった。


「あぁ、彼女は長谷川巴悠里さんっていって理事長の秘書だ…っと遥、教室に着いたぞ。」


ヤマト兄が『3ーD』とかかれた教室の前で立ち止まった。

教室のドアの隙間から生徒達のざわめきが聞こえてくる。

いっきに緊張が体中をめぐり呼吸が止まりそうになる。

そんな俺の背中をヤマト兄が優しく叩いた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だょ、遥。なんなら手を繋いでてやろうか?」


ヤマト兄がニヤリと笑った。

俺は一瞬ヤマト兄に手を引かれて教室に入る自分を思い浮かべ、眉をひそめる。


うっ…俺、格好悪すぎだろ。