あたしはただ、毎日を普通に過ごしていた。あいつが探しているオリジナルという価値観を今はあたしも追いかけているけど、自分にとってのオリジナルが何なのか全く分からない。

 あいつはずっと小説を書いていて、それを追い求める方法だと考えていた。別にあいつがそういうことをあたしに言った訳ではないけれど、あいつにとって小説で表現される自分自身がとても大切なんだということは、その表情から何となく伝わってきた。

 あいつはあたしに「世の中がつまらないのはお前の目が腐っているからだ」と言った。今ではその意味も分かるようになった。繰り返す毎日は普通で退屈だけど同じ日は絶対にない。そしてそれを繰り返すことって、何かを探求するということと同じ努力なんだと知った。

「晩飯は?」
「あん? 毎日何時に帰って来るかも分かんないお前の為に、何でそんなモノ作らなきゃならないんだよ。甘えんな、てめえで作れ」
 あたしの母には、父と別に若い男がいる。救いようのないギャンブル中毒で借金まみれ、しかも暴力的な父とはもう冷め切っていた。今はどうやって離婚するかを考えているらしい。そしてその時、あたしをどうやって父に押し付けるのかを考えているらしい。

 知りたくもないそんな母の考えが、親子だからなのかあたしには手に取るように分かった。

「……期待はしてなかったけどさ」
「大体、お前まだ十六だろ。こんな時間まで何やってたんだよ。また親父に股開いてたのか?」
「もうウリなんかやってないよ」
「はっ、ウリやってる最中に自殺未遂するようなガキがなに言っても説得力なんかねえよ」
 母を見ていると、こんな感じの大人にあたしもなるんだろうかと思い心が重くなってしまう。こんな屑のような母でも明るくて朗らかな子供だったと、死んだ祖母は言っていた。父に出会って略奪のような結婚を強いられ、あたしが産まれた頃から母の様子が変わっていったらしい。

「あんたさえいなけりゃ……」
 ここ最近、母はあたしを憎々しげに睨みつけるようになった。父の仕事が夜勤になる週末は、ほとんど家にはいない。

 あたしは母の相手の若い男を知っているけど、そんな魅力的な男には見えなかった。ひょろひょろと弱々しくて、言ってしまえば父とは正反対に見える。きっとあの男は、父から睨まれでもしたらすぐに母を捨てるだろう。