「翼。何か不自由はあるか?」




「大丈夫だよ、甲子太郎(かしたろう)。」




甲子太郎はにっこり笑って俺の正面に座った。




やっぱり、優しい笑顔だな。




俺もにっこり微笑み返すと、甲子太郎はゆくり目を三日月形にした。




伊藤 甲子太郎。



御陵衛士、盟首。




ごりょうえいじ、つまり天皇の墓を守るための組織。



甲子太郎は、だいたい30歳くらいかな?




現代で甲子太郎を調べていた時のイメージからは想像つかないくらいの柔和な顔。




後の行動から人情が薄いやらと現代には悪いイメージしか伝わっていなかったけれど、それは違う気がする。





「書見もあり、なかなかできた人である。」




ここに来てから知り合った甲子太郎の同志らが口を揃えて言っていた。




学問が良く出来、御陵衛士にとって一種のカリスマ的トップであっても決して驕らない人各者。




それが伊藤 甲子太郎。