「どうしても通さないと言うのか?」



  

人相の悪いもう一人の男も低く聞いてくる。





「絶対にここは通しません。」






藩士たちの表情が見る見る変わっていくのがわかった。




相手に黒い殺意が芽生えるのを感じる。





「そちらがその気ならば、力ずくで通してもらうまでだ。」





にやり、と笑う。




藩士たちが懐の刀に手を掛けたのを横目で見て、私も刀を握る手に力を込める。




どうしてもこの場は刀を振るしかなさそうだ。





「はぁ!」





突き進むしかないんだ。





それがどんなに暗い道でも、生きるために。





男は断末魔の叫びを上げ、それを聞いた長州藩士たちが次々とかかってくる。





絶えることなく返り血を浴びる。





丁度料理をしていて、着ていたのが着物じゃなくてよかった。





へばりつく血で赤く染まった刀は、どんどん切れ味が悪くなる。





そんなことを頭の片隅で考えながらもただひたすら刀を振り下ろす。





次第に周りの声は無声音のように聞こえなくなり、藩士の動きはスローモーションのように遅く見えてきた。





こうなればもう誰も相手にならない。





途中頬を何かがかすめたのを感じたけれど、ただ無心に藩士にかかっていった。






後悔なら後ですればいいんだ、と自分に言い聞かせて。