金平糖*days

 ウチのガレージと臣くんちの間には小さな植え込み。膝の下までしかない30センチほどの境界を隔てて、私たちは向き合った。
  朝の挨拶も浮かばないほどに臣くんは慌ててる。灰色と白、ツートンカラーのスェット上下。多分これはパジャマ代わりなんだね。
「ううん」
 にわかに高鳴り出す胸。昨日の晩から何度も何度も繰り返してシミュレーションしたのに、こうやって本番になって本人を目の前にするとさすがに緊張する。
「これ、渡すのに待ってたの」
 そう言って、紙袋を前に差し出した。カードとかは添えなかった、中には綺麗にラッピングした大きめの包みがひとつ。
「あ、……ありがとう」
 まだ頭が完全に目覚めてないのかな? 臣くんの反応がすごく鈍い。
「開けていいかな?」
 臣くんの言葉に、私はひとつ頷く。長くて綺麗で、何でも器用にこなしちゃう臣くんの指先がくるくる巻きのリボンを解いていく。うすピンクのラッピングペーパーの中は透明な箱だから、開けなくても中身が分かる。
「うわ、何だかすごいね」
 素直な驚きの声、私はえへへっと照れ笑いした。
 だって、いつの間にかこうなっちゃった。本当は小型のチョコレートケーキを焼くためのハート型。溶かしたチョコとナッツやマシュマロ、コーンフレークにこめはぜ。とにかく段々にこれでもかってくらい詰め込んだ。途中、ホワイトやストロベリーのチョコも使ったから、断面は綺麗な縞々模様になってる。
 チョコレートだけで軽く1kgを越えていたもんね。いくら混ぜものが多いとは言っても、ちょっとやそっとじゃたいらげられない分量だと思う。
  包丁でも切れなそうだし、一体どうやって食べたらいいんだろう。出来上がってからそれに気付いたけど、まあ食べるのは私じゃないし。いいかなーと思った。
「何か、一気に目が覚めたよ。……参ったなあ、これは」
 柔らかい猫っ毛は、あちこちに寝癖が付いてる。それに気付いてるのか気付いてないのか、臣くんは髪をくしゃくしゃってかき混ぜて独り言みたいに呟いた。
 それから、今度は真っ直ぐにこちらに向き直って。
「これが、くるみの考えた答え? 僕の欲しかったもの……?」