金平糖*days

 午前6時、夜明け前。
 うっすらと白くなり始めた空、ぼんやりと見える風景。私の動きにセンサーが反応して、ガレージの灯りが何度も点いたり消えたりする。白い息、もわもわ。浮かんでは消えていく。
 ぴっちりとカーテンの閉まった窓を、何度となく見上げてた。……大丈夫、まだ自転車はあるし。新聞も牛乳も配達されたまま。手袋をしててもかじかんでしまう指、はぁっと息を掛けて温める。耳がかぶるくらい深く巻いたマフラー。
 鉄筋の柱にもたれかかって、ぼんやりと目で追う一つ星。今日は一日、どんなにたくさんのドラマが生まれるのだろう。特殊カメラで見たら、あちこちにハートマークが乱舞して大変だろうな。だけど、まだ幕開け前。静かな静かな朝。
 ……うっ、駄目。気を抜くと、このままうとうとしちゃいそう。
 昨日は一日大変だったもんな、本当は家に帰ったらすぐにベッドに直行してバタンキューしたかった。でも、そう言うわけにも行かないから。必死で頑張った「成果」は縞々模様の紙袋の中で出番を待っている。
 どこからか、エンジン音。メール便配達のオートバイが目の前を通り過ぎていく。こんな朝早くからご苦労様。ヘルメットの下で耳が赤くなってるお兄さんを見送った後、私は大きくひとつ深呼吸した。
 ――まだかな。
 ちょっと気合いを入れすぎたかしら、あと30分くらい遅くしても良かったかな。だけど、駄目。もう一息、気力で乗り切るんだ。ううっ、負けないぞ……!

「えっ、……くるみ!?」
 不意に空から声が降ってきた、……わけない。二階、南側の窓。そこから臣くんが顔を出していた。ふふ、寝ぼけたまんまの顔だ。さすがに驚いてるみたいで、何だか嬉しい。
「おはよう!」
 半分凍ったままの頬を動かして、どうにか笑顔を作る。
 だけど、臣くんはそれには何の反応も示さずにすぐに窓を閉めた。続いて、家の中で階段を下りてくる音がして。玄関ドアを開けて、お父さんのサンダルを足に引っかけた臣くんが出てくる。
「どうしたの、今朝は何か早く登校しなくちゃいけない用事でもあった?」