金平糖*days

 知らないうちに、涙がぼろぼろと溢れてきた。早く行かなくちゃ、試作会の準備をしなくちゃと思っても、どうしても止めることが出来ない。
 1階の階段下、物置みたいにごちゃごちゃと埃をかぶった用具が置かれている場所に隠れて、気持ちが落ち着くのを待った。何度も深呼吸をして、気持ちを切り替えようとしても駄目。ポケットティッシュふたつがあっという間に空っぽになった。
 もうやだ、こんなのは絶対に。
 臣くんが変なことを言い出すから、私はずっとそのことばっかり考えて、いつの間にか頭の中が臣くんで埋め尽くされてしまった。ずるいよ、どうしたらいいの。このままいたら、息が詰まっちゃう。呼吸困難になって死んじゃったら、責任取ってくれるのかな?

 いっぱい泣いて、とことん泣いて。
 そしたら、ようやくすっきりした。無駄な感情が全て流れ落ちてしまったみたいに、心はクリアに晴れ渡っていく。

 ……そうか、こんなに簡単なことだったんだな。

 午後の授業もその後の試作会も、元気よく乗り越えることが出来た。予想を超えてかなり忙しくて大変だったけど、お菓子作りってやっぱり楽しい。ほとんど味見で終わっちゃうような人もいたけど、それはそれでいいんだよね。
  最後に特別参加の穂積ちゃんが、持ち前のセンスを生かしてラッピング講習会までしてくれた。次々に完成していく色とりどりのパッケージ。参加してくれた人たちの満足そうな笑顔を見ていたら、こっちまで幸せな気分になれたよ。
 ふと窓の外を見たら、中庭を突っ切っていくジャージ姿の臣くんがいる。「ふうん、これから部活かぁ」なんて、のんびりとその横顔を見送ることが出来た。