金平糖*days

 ――いた!
 集団の中ほど、ひときわ目立つ長身は見つけるのが簡単。隣にいるのは「今井」って先輩かな、それとも「安田」って人かな? 楽しそうにこづき合ってる姿は私が知ってるよりもずっと子供っぽく見えた。あ、髪の毛切ったんだ、だいぶすっきりしてる。てっぺんの辺りはつんつんして、でも襟足は長く残して。短い前髪は汗で額に貼り付いてた。
 何か……何というか、すごい格好いいかも知れない。
 じーんと何かがこみ上げてきて、私は柱を掴む手に力を込めた。だって、久し振りなんだもの、こうやって臣くんを見るの。ホント、金曜日の昼休みに偶然ここですれ違った以来、ちらっとその姿を見ることもなかった。家に帰ったって臣くんの部屋はぴっちりと遮光カーテンが閉められていて、奥の人影もよく見えない。とりあえず光はうっすらと漏れるから、そこにいることは分かってるんだけど。
 うわあ、本物だよ……!
てんぱってる脳みそで考えた結果。今日は一日、出来るだけ多く臣くんと接触することに決めた。もちろん、直接声を掛けたりそう言うのは駄目だから、物陰から覗くだけ。これじゃストーカー行為になっちゃうけど、仕方ない。
  時間ないんだもの、タイムリミットは迫ってるんだもの。だけど……何か、このまま諦めるのもしゃくなんだよね。やっぱ、本人を見ていれば何かに気づけるかもって思うから。臣くんの一挙一動に、ヒントがばっちり隠されているんじゃないかな。

『何言ってるの、時間は誰にだって共通に与えられているんだよ。みんな条件は同じなんだから、大丈夫。くるみはまだまだ頑張れる』
 ……ああ、確かあれは高校入試前の追い込みの時期だった。
 直前の模試の結果が散々で、私は半ば諦めかけていたのよね。とりあえず私立は受かってたし、そっちでもいいからって。
  だけど。やる気を無くしてぼんやりしていた私に、臣くんは今までに一度も見たことがないくらい怖い顔で言った。『やる前から諦めちゃ駄目だ』って。あのひと言がなかったら、きっと今の私はいないんだ。
 うう、色々考えたら何だか泣けて来ちゃう。だって、私の回想シーンには絶対に臣くんが出てくるんだもん。そもそも考えないようにする方が無理だったんだ。必死に強がってたけど、そろそろ限界。

 コオロギみたいに柱にへばりついた私になんて全然気が付かないまま、臣くんは他のクラスメイトと一緒に教室に入っていった。