校門をくぐって、休日に校舎に出入りする時に使うことになっている職員玄関の前まで辿り着く。
一度自分の持っていた荷物も牧田くんに預けると、許可証を出して守衛さんに見せて調理室の鍵を受け取る。そのあとノートにクラスと名前を書いて、ようやく完了。ついでだから、牧田くんの分も書いてあげた。
その時ふと思いついて、記入欄を遡ってみる。やっぱり、というか何というか、臣くんの名前はない。もしかしたら生徒会の仕事で来てないかなーって思ったのに、違ったのか。それだけのことでがっかりする自分がおかしかった。
「……生徒会長に、無理難題を突きつけられたんだって?」
上がり口のところで待っていた牧田くんが、ふとそんな風に切り出す。先に靴を脱いで荷物を受け取ってから、彼の方に向き直った。やっぱり、綺麗な顔だ。茶色っぽい目が、子犬みたい。
「それで、答えは出たの?」
続けざまな質問に、私は黙ったまま首を横に振る。ああ、やだな。せっかく忙しさに紛れて忘れたふりをしていたのに、どうして思い出させるようなことを言うんだろう。意地悪だよ、牧田くんは。
「いいの、もう。臣くんなんて、知らないんだから。最初から、私に考えつくはずがないって分かっていてあんなことを言ったのよ」
すたすたと牧田くんの前を歩きながら、無理に元気よく言った。そうしないと、また悲しくなってくる。臣くんに突き放されてしまった事実を、私はまだきちんと受け入れられてない。
「ふうん、……そうなんだ」
その瞬間、あれ? って思った。いつの間にか私を追い越して目の前に立ちはだかった牧田くんが、じーっとこちらを見つめてる。その瞳が、……何というか、すごくアヤシゲ。いや、この場合は色っぽいって言うのかな?
「森永さんが完全に生徒会長と切れたって言うなら、俺は正式に立候補しちゃうんだけどな。これで、結構強引だと思うんだけど、覚悟出来てる?」
どこまでも自信たっぷりな顔、じっと見つめている私の方は一体どんな表情をしていたんだろう。一呼吸の沈黙を置いて、彼はふっと顔を和らげた。
「ま、それでもいいんだけどさ。その最初から投げやりなのは気に入らないな。まだバレンタインまでは二日の猶予があるんだから、もう少し頑張ってもいいんじゃない? 『考えつくはずがない』って諦める前に、もっと出来ることがあるでしょう」
ぼんやりしたままの私の手から鍵をもぎ取って。彼は紙袋を持ち直すと、ずんずん廊下を先へ歩いていった。
一度自分の持っていた荷物も牧田くんに預けると、許可証を出して守衛さんに見せて調理室の鍵を受け取る。そのあとノートにクラスと名前を書いて、ようやく完了。ついでだから、牧田くんの分も書いてあげた。
その時ふと思いついて、記入欄を遡ってみる。やっぱり、というか何というか、臣くんの名前はない。もしかしたら生徒会の仕事で来てないかなーって思ったのに、違ったのか。それだけのことでがっかりする自分がおかしかった。
「……生徒会長に、無理難題を突きつけられたんだって?」
上がり口のところで待っていた牧田くんが、ふとそんな風に切り出す。先に靴を脱いで荷物を受け取ってから、彼の方に向き直った。やっぱり、綺麗な顔だ。茶色っぽい目が、子犬みたい。
「それで、答えは出たの?」
続けざまな質問に、私は黙ったまま首を横に振る。ああ、やだな。せっかく忙しさに紛れて忘れたふりをしていたのに、どうして思い出させるようなことを言うんだろう。意地悪だよ、牧田くんは。
「いいの、もう。臣くんなんて、知らないんだから。最初から、私に考えつくはずがないって分かっていてあんなことを言ったのよ」
すたすたと牧田くんの前を歩きながら、無理に元気よく言った。そうしないと、また悲しくなってくる。臣くんに突き放されてしまった事実を、私はまだきちんと受け入れられてない。
「ふうん、……そうなんだ」
その瞬間、あれ? って思った。いつの間にか私を追い越して目の前に立ちはだかった牧田くんが、じーっとこちらを見つめてる。その瞳が、……何というか、すごくアヤシゲ。いや、この場合は色っぽいって言うのかな?
「森永さんが完全に生徒会長と切れたって言うなら、俺は正式に立候補しちゃうんだけどな。これで、結構強引だと思うんだけど、覚悟出来てる?」
どこまでも自信たっぷりな顔、じっと見つめている私の方は一体どんな表情をしていたんだろう。一呼吸の沈黙を置いて、彼はふっと顔を和らげた。
「ま、それでもいいんだけどさ。その最初から投げやりなのは気に入らないな。まだバレンタインまでは二日の猶予があるんだから、もう少し頑張ってもいいんじゃない? 『考えつくはずがない』って諦める前に、もっと出来ることがあるでしょう」
ぼんやりしたままの私の手から鍵をもぎ取って。彼は紙袋を持ち直すと、ずんずん廊下を先へ歩いていった。
