金平糖*days

 まあね、クラスメイトなんだし。こうやって連れだって歩くことがあっても不思議じゃない。
 だけどなー、何かすごい違和感。隣に茶色いふわふわ頭が揺れてるの、すごく落ち着かない。しかも爽やかな柑橘系の香りまでしてくる。これってシャンプーかな、それともムースか何かなのかな。男子でもやっぱ、朝シャンとかブローとかするんだろうなあ……。
 無意識のうちにじろじろと眺めちゃったのかな? ぽつんぽつんと他愛のない話を続けていた牧田くんがくるんとこちらに向き直った。長いまつげまでが焦げ茶色だ。それでも目がぱっちりと見えるのが不思議。
「……本当に面白いね、森永さんって」
「え……?」
 そんな風に言われたら、誰だって驚くよね。私がびっくりして聞き返したのに、彼はくすくすと笑うだけ。うわー、八重歯が見える。しかも片えくぼだったりして。何か男子にしておくのがもったいないくらいだわ。
「それって、『顔が』ってことなの?」
 ま、確かに絆創膏はなくなったものの鼻の頭の擦り傷は悲惨だけど。牧田くんもすぐに否定してくれればいいのにますます大ウケで笑ってる。むーっと顔をしかめたら、彼はようやく「ううん」って首を横に振ってくれた。
「あはは、やっぱり。森永さんって、俺が思ってた通りの女の子だ」
 今度は「ごめんね」って断ってくれたけど、牧田くんはまだ笑ってる。しばらくはまともな会話も出来ないまま、気が付いたら校門を抜けていた。
「……あ」
 そこで、何となく振り返ってしまう。だけど視線の先には銀杏の木がひとりぼっちでいるだけ、人影なんてない。色々手間取っていたから、いつもと同じ時間になっちゃった。やっぱり本気だったんだなあ、臣くん。今頃、どこでどうしているんだろう。
「どうしたのー? 早く行こうよ」
 ああ、いけないいけない。人を待たせちゃ、駄目だわ。小走りに牧田くんのところまで急いだら、冷たくなり始めた空気に晒されて鼻の頭がじんとした。