金平糖*days

「あーもうっ! 最悪ーっ……」
 誰もいない調理室。ボールとか泡立て器とかお鍋とかの器具の確認をしてた。もちろん、ひとりで。
 週明けの月曜日はチョコレート試作会の本番。当日は授業の後すぐに始めないと駄目だから、ここの準備は金曜日の今日中にどうにかしておかなくちゃ。
 そうそう、温度計もちゃんと用意しなくちゃね。「調理」というより「実験」に近いと言われるお菓子作りだけど、チョコレートの扱いは温度管理がとっても難しい。いい加減にやっていたら、絶対に美味しいものは出来ないんだ。
 月曜日はこの部屋を使う授業はないって言われたから、どんどん調理台の上に並べちゃう。かがんで下の棚を開けたり、引き出しの中を改めたり。一通り揃え終わる頃には西側の窓から差し込んだ夕日で部屋中がオレンジ色に染まっていた。
 昼休み。あんまり呆然としていたら、そのうちに5限目の予鈴が鳴ってしまった。
 仕方なくそのまま教室に戻って放課後もう一度出直すと、先輩たちはすでに帰宅した後。携帯で呼び戻しても良かったんだけど、何となく面倒でそのままにしちゃった。そりゃ時間は掛かっちゃうけど、ひとりで出来ない作業じゃない。そんな風に思っちゃったのね。
 実のところ私、誰かに「お願い」するのが苦手。口に出さなくちゃ分からないでしょって言われるんだけど、駄目なんだな。ちょっとくらい自分が大変になるだけなら、どうにかしちゃおうって考えちゃう。
 ……だけどな。
 こうやってひとりで黙々と作業していると、色んなことを考えちゃうのね。昼休みの臣くんのこととか。ぐるぐるといらないことばかり思い浮かんで、どんどん気持ちが暗くなってくる。
 誰もいないのをいいことに思わず大声で叫んじゃったら、広い部屋中の壁や天井に私の声が反響してますます惨めな気分になった。