臣くん以外にも、ちゃあんと救急セットを持ってる人はいた。そう、それは穂積ちゃん。教室までたどり着くと、彼女はいつも通りにおっとりとした物腰で私たちを迎えた。
「大変よ、くるみちゃん。すでに噂が広がってるわ」
その言い方が、全然大変そうじゃないんですけど。「あらあ、こっちも大変ね」って私の膝小僧を指さして、にっこりと笑った。
「えー、何それ。訳が分かんないじゃないのっ!?」
膝小僧全体に広がった擦り傷、そこに染みこむマキロンが痛い。ようやくぽつんぽつんと昨日のいきさつを説明した私に、ふたりはリアクションはかなり違えど同じくらい驚いた様子だった。
ちなみに穂積ちゃんは教室に入るまでに全部で10人から詳細を訊ねられたという。そうかー、だから今朝はいつもに増して周りの視線が気になったのね。全部鼻の頭の絆創膏のせいだと思っていたんだけど、違ったのか。
「まあ、知らないものは答えられないから。適当に言葉を濁しておいたわ。何だかあっという間に、話がどこまでも膨らんでいるらしいわよ」
一体どこから情報が流れたのだろう。とにかく昨日のバス停での一件から今朝の別登校まで、芸能ニュースのようなスピードで臣くんと私の破局(?)が全校に広まっていた。
「そりゃあね、往年のゴールデンカップルにいきなりの出来事じゃ、誰だって驚くでしょうよ。時期が時期だし、なおさらだわ~! うわあ、これからが見物だ」
……あの。だから、別に私と臣くんは特別な関係じゃないんですけど。
何も知らない外野ならともかくとして、ふたりはとっくにそれを承知しているはずよ。その上、どうしてそんなに楽しそうなんですか、和沙ちゃん。完全に顔がにやけてるよ……。
「でも、確かにいきなりよね。困ったわねえ、その調子じゃメニューのことも相談出来てなかったんでしょ? まあ、今となってはこっちの方が一大事かも知れないけど。どうしたのかしら、今庄先輩。まさか……」
――意中の彼女でも出来たのかな?
そんな言葉があとに続くような気がした。もちろん、穂積ちゃんは声に出さなかったけどね。
だから、私も何も言わなかったよ。別にね、悲しいとかそういう気持ちは余り無かった。ただ、……何て言うんだろう。自分の「宇宙」に穴が空いて、そこから空気が抜けていくような空虚な気分。心からも身体からも力が失われていくのに、自分ではどうすることも出来ないの。
「大変よ、くるみちゃん。すでに噂が広がってるわ」
その言い方が、全然大変そうじゃないんですけど。「あらあ、こっちも大変ね」って私の膝小僧を指さして、にっこりと笑った。
「えー、何それ。訳が分かんないじゃないのっ!?」
膝小僧全体に広がった擦り傷、そこに染みこむマキロンが痛い。ようやくぽつんぽつんと昨日のいきさつを説明した私に、ふたりはリアクションはかなり違えど同じくらい驚いた様子だった。
ちなみに穂積ちゃんは教室に入るまでに全部で10人から詳細を訊ねられたという。そうかー、だから今朝はいつもに増して周りの視線が気になったのね。全部鼻の頭の絆創膏のせいだと思っていたんだけど、違ったのか。
「まあ、知らないものは答えられないから。適当に言葉を濁しておいたわ。何だかあっという間に、話がどこまでも膨らんでいるらしいわよ」
一体どこから情報が流れたのだろう。とにかく昨日のバス停での一件から今朝の別登校まで、芸能ニュースのようなスピードで臣くんと私の破局(?)が全校に広まっていた。
「そりゃあね、往年のゴールデンカップルにいきなりの出来事じゃ、誰だって驚くでしょうよ。時期が時期だし、なおさらだわ~! うわあ、これからが見物だ」
……あの。だから、別に私と臣くんは特別な関係じゃないんですけど。
何も知らない外野ならともかくとして、ふたりはとっくにそれを承知しているはずよ。その上、どうしてそんなに楽しそうなんですか、和沙ちゃん。完全に顔がにやけてるよ……。
「でも、確かにいきなりよね。困ったわねえ、その調子じゃメニューのことも相談出来てなかったんでしょ? まあ、今となってはこっちの方が一大事かも知れないけど。どうしたのかしら、今庄先輩。まさか……」
――意中の彼女でも出来たのかな?
そんな言葉があとに続くような気がした。もちろん、穂積ちゃんは声に出さなかったけどね。
だから、私も何も言わなかったよ。別にね、悲しいとかそういう気持ちは余り無かった。ただ、……何て言うんだろう。自分の「宇宙」に穴が空いて、そこから空気が抜けていくような空虚な気分。心からも身体からも力が失われていくのに、自分ではどうすることも出来ないの。
