金平糖*days

「おはよ~、くるみ。……うわ、うわわわ。何それ、すごい絆創膏」
 バスを降りたあとひとりで歩いてたら、後ろから名前を呼ばれた。振り向いたらそこに和沙ちゃん。電車通だから、時々こんな風に合流してる。
「おはよー」
 ああ、やっぱ絆創膏はやりすぎだったかな。でもなー、鼻の頭から血が滲んでるのもどうかと思ったんだもの。バッグの中をいくら探してもピンクや黄色のファンシーな柄のしか出て来ないし、参った。
「ちょっとー、それ絶対に保健室だよ。ちゃんと消毒しておかないとあとになったりしたら大変。ま、待って。こっちの膝もすごいじゃない……!」
 家からバス停までの道のりは、なだらかな下り坂。
 あっという間のその距離で、今朝は三回も転んだ。そんなに安定感が悪いとは思っていなかったんだけど、自分でもびっくり。
 一度なんて、丁度目の前を通りかかった小学生がびっくりして起きあがらせてくれた。「お姉さん大丈夫?」ってすごい心配されちゃって、思わず「えへへ」って照れ笑いしちゃったよ。
『通学路には危険がいっぱい』とか看板も立ってるけど、本当にこんなに歩きづらかったなんて知らなかった。蓋の半分開きかけたマンホール、隅っこがはがれ掛けた点字ブロック。ゴミ置き場の周辺は空きビンとか空き缶とか落っこちてるし、一体どうなってるんだーって思っちゃった。
 何で今までは平気だったのかなと考えて、すぐに気付く。
 そうか、臣くんがいたからだ。私よりも少し先を歩いて、危ないところを避けてくれてたみたい。私はただ臣くんの背中だけを追いかけていれば、とっても安全だった。もしも万が一、絆創膏が必要になったとしても、ちゃんと目立たないのを持ってるし。多分、消毒液だって常備してそうだ。
 あっという間に思い知らされて、また落ち込む。ああ、やっぱ変だったよ、昨日の臣くん。何でいきなりあんなことを言い出すの。もしかして宇宙からの謎の侵略者に脳細胞を破壊されちゃったとか? うーん、そう言うこともあり得るよなあ。
「あれ? ……そう言えば今庄先輩はどうしたの。今日は朝練とか?」
 ほらほら、傷ついた心と身体に練り辛子をすり込むような発言は避けるように……! そう言い返せるだけの気力は、すでに私には残っていなかった。