金平糖*days

「……ねえ、臣くん?」
 消えそうな声で呟いたのに、ちゃんと振り向いてくれた。それなのに、慌てて視線を足下に落としてしまう私。臣くんはとにかくこちらをじーっと見つめてくるから、すごく恥ずかしくなっちゃう。
「チョコなんて、単なるかたちだよね。……どれだって、同じだと思わない? 別に大した違いもないよね」
 確かに、きらきらのラッピングも大好きだ。くどいほどの飾り付けもいかにも商魂たくましい売り込みも嫌いじゃない。だけど、その何もかもが私にとっては他人事のように思えてしまう。まるで別世界の出来事みたいなのよね。目の前に突きつけられても、すごい違和感がある。
「そうかな。本当に、くるみはそんなふうに思うの?」
すぐに私の言葉に同意してくれると思ってた。だって、臣くんは毎年どんなチョコをあげても喜んで受け取ってくれるでしょう? もちろん、他の女子に対しても同じ笑顔で同じ行動をするんだけどさ。
 なのに、全く意図しない返答。びっくりして、顔を上げちゃったよ。もっと怖い顔をしているかと思ったら、予想に反してどこまでも穏やかな笑顔。
「え……違うの?」
 どこが? とまでは聞けなかった。多分、顔にしっかり書いてあったと思うけど。臣くんは微笑みの表情を崩さないまま、続けた。
「くるみがそんな風に考えていたなんて、心外だな。ちょっとがっかりした。そんな風じゃ、僕がどんなのが欲しいかも全然分かってないんでしょう? これでもちゃんと、希望はあるんだけどな」
 首を横に振ることすら出来ずに、私はただ瞬きだけで反応した。
 だって、変だよ。
 こんな質問、臣くんは過去に一度だってしたことがないでしょう? バレンタインも誕生日もクリスマスも、私が選んだ贈り物を臣くんはいつも笑顔で受け取ってくれた。例外なく、すごく喜んでくれたじゃないの。
 そうやって、すぐに言い返せればいいんだけど。臣くんの前ではすぐ言葉に詰まっちゃう。ゆっくりと一度、深呼吸をして。臣くんは再び口を開く。
「駄目だよ、そんな顔したって。――そうだ、こういうのはどう?」
 気付けばそこは、バス停の前。
 私たちのすぐ脇に、ドアを開けたバスが停車してる。臣くんは一度ポケットから出しかけた定期入れをそのまましまった。いつもと同じはずの優しい顔がすごく遠く感じる。
「くるみが自分で当ててごらん? でも外れていたら、その時は受け取らないから覚悟しておいて。まだいくらか時間があるし、ひとりでゆっくり考えればいいよ」
 ふたりの間を通せんぼするように、バスのドアが静かに閉まった。